06. デザインファームnanilani代表 村瀬隆明
自身でデザイン事務所を立ち上げる経緯を教えてください。
村瀬:大学を卒業後、デザイン会社に入社したのですが、そこで出会った同僚と一緒に独立してnanilani(ナニラニ)を立ち上げました。僕がデザイナー、パートナーが編集者だったので、最初は企業広告や編集が絡むページもの、雑誌のエディトリアルデザインなど、プロダクションワークを手がけるミニ制作会社のようでしたね。そこから、美術大学やデザインの専門学校出身ではなく、大学の経済学部出身という強みを活かして、経済やビジネスをデザインと掛け合わせたものができるのではないかと考えていたところ、より企業の戦略や経営に近いところで自分たちのクリエイティブが役立ち、社会的にもきちんと価値を見出せるブランディングの仕事をやりたいと思いました。ちょうど世の中もブランディングに焦点が当たってきた時代だったので、そういう相談も少しずつ増えていきましたね。
印象に残っているお仕事は?
村瀬:当時はまだ成長企業だったJINSさんのブランディングを手がけさせてもらいました。広告やCMの制作は大手の代理店さんが担っていたので、僕はクリエイティブディレクターのような立ち位置で、日々の販促やVMD、店頭デザイン、パッケージデザイン、眼鏡の商品開発、お客様の体験向上など、結構深いところまで入らせてもらえました。それと同時に、社長を含めた経営陣の方々と、市場で勝ち抜くための戦略やビジネスの拡大といったところにも関わる機会にも恵まれました。最初にJINSさんと仕事した時はまだ50、60店舗だったのですが、今では世界で660店舗、売上も60、70億から600億に、社員数も何倍にも急成長していく場面にずっとご一緒できたというのは大きかったですね。
新規事業として和菓子ブランド「なか又」を始めた経緯を教えてください。
JINSの田中社長が群馬県前橋市の出身で、地域を盛り上げる活動をされているのですが、クリエイティブ面でサポートさせてもらったり、今ではシャッター街になってしまった商店街を、再び人で賑わう繁華街にしたいということで、さまざまなお店を誘致したり、チャレンジしたい若者を呼び込み、新しいコンテンツを作り出すためのプランニングにも関わっていたので、度々出張で前橋市へ行くようになりました。ある日、田中社長から「村瀬さんも前橋で楽しいことをやってみない?」とお声がけいただいたこともあり、せっかくなので何かやらせてもらおうと、その商店街の一角を購入させていただきました。ただ、そのタイミングでは和菓子屋をやるというアイデアは全くなかったのですが、その土地のお土産、名物になるようなお菓子があったらと思い、お菓子事業に挑戦することにしました。一方で、ブランディングを手がけるデザイン会社がたくさんある中で、自らお店を運営することが信頼感にも繋がるし、デザインと食をシナジーさせた事業をやっていきたいという思いで始めました。
なぜ、どら焼きだったのですか?
名物になるお菓子を目指していたので、前橋市の丸い市章にちなんで、どら焼きでいこうと考えていました。極端な話、生地で何かを挟めばどら焼きなのだと、ある意味、どら焼きをプラットホームと捉え、ケーキや洋菓子のテイストを取り入れていきました。例えば、ふわふわの生地にしたり、餡ではなくプリンを挟んでみたり、美味しいだけではなく見た目にもインパクトがあって、「これがどら焼きなの?」という方が逆にいいのではないかと。パンケーキと同じような考え方でどら焼きの開発を進めました。あとは店舗を造るにあたり、新たな体験のひとつとして、360度ガラス張りにしてどら焼きの制作工程を見ることができるようにしました。そうしたら、どら焼きを作る動画が運良くSNSでバズって、その翌日から行列ができるようになりました。
仕事のやりがいや魅力についてはどう思っていますか?
村瀬:「なか又」のお菓子を食べて喜んでくれるお客さんもいれば、デザインを通して喜んでくれるクライアントさんもいるという、自分の好きなことが社会のためになるところがやりがいというか、一番の原動力ですかね。
普段、何時間ぐらい寝ていますか?
村瀬:大体、深夜1、2時ぐらいに寝て、子どもたちが6時前には起きるので、とりあえずそれに合わせて起きています。学校へ送り出したら、もう一度寝ようと思うのですが、なんだかんだ仕事が忙しくて、結局寝られないパターンが多いですね。なので、睡眠時間は4、5時間ぐらいですね。
睡眠の重要性をどのように捉えていますか?
若い頃は、1日24時間しかないので、睡眠時間を削ってでも仕事をしていましたが、今は全くそういう考え方はないですね。ただ、現状7時間とか一定の睡眠時間を取れる生活ではないので、そこは不満だし、改善したいです。その分、15分だけでも昼寝をしてリフレッシュするようにしています。最近、睡眠をトラッキングするようなウェアラブルデバイスなどがあるじゃないですか。そういった話を聞くと、自分の睡眠の質をもう少し高めたいという思いはありますね。
休暇の過ごし方、リフレッシュ方法を教えてください。
村瀬:子供との野球ですね。うちは3人の息子がいるのですが、休日に野球でもやらせないと収拾がつかないので苦笑。近所の野球チームに所属しているのですが、自分の息子だけではなくて、他の子供たちにも教えたり、面倒を見たり。今まで地域活動みたいなものに全然縁がなかったのですが、少しは地域のためになっているのかなというつもりでやっています。それが今では趣味であり、リフレッシュ方法でもありますね。
今後の人生の目標やビジョンはありますか?
村瀬:自分にしかできないことや強みを活かして、誰かのためになれることがすごく楽しいので、そういう想いで今後もやっていきたいですね。例えば、世界で活躍できる日本人デザイナーは限られるけれど、和菓子であれば世界で戦えるのではないかと。世界目線で見ると、和菓子も日本人である自分の強みなので、グローバルな展開ができれば面白いと思うし、それは果たしたいですね。
Text & Edit:Kazuhiro Hasegawa(no name books)Interview photos:Kazuhiko Tawara(magNese inc.)
睡眠とは
1978年名古屋市生まれ。2005年に、デザインファーム株式会社ナニラニを設立。ブランド戦略やVI開発など、広義のデザインを志向する。2013年から前橋市の活性化に携わり、2018年、「和む菓子 なか又」を前橋市内に開店。2020年、株式会社スイートを設立し、菓子事業に本格的に進出した。