05. コレオグラファー/ダンサー 野口量
ダンスを始めたきっかけを教えてください。
野口:今は閉店してしまったのですが、横浜にあったClub HEAVENで友達がダンスショーに出演するということで、初めて深夜のクラブへ遊びに行きました。そのイベントの最後に出てきたのが、LA発の伝説的なダンスクルー「エレクトリック・ブーガルーズ」のメンバーだったスキーター・ラビットが登場したのです。そのダンスが本当にすごくて、カッコよくて、ダンスを始めようと思いました。18歳だったのですが、とてもドキドキしたのを覚えています。
その後、世界的なダンスグループとなった「無名(WOOMIN)」結成の経緯や
活動内容を教えてください。
野口:最初は、ひとりで夜のビルや駅のガラスの前で練習していました。次第に友達も増えていき、そこで仲間になった連中と結成したのが無名(WOOMIN)です。とある雑誌のダンスコンテストがあり、優勝すると雑誌に掲載されるという、若かりし欲望が結成の経緯です苦笑。その後、さまざまなダンスコンテストに参加して結果を残していくと、知名度も上がり、イベントやショーにゲストダンサーとして呼ばれるようになりました。そして、UNIQLOのフリースのCMに抜擢され、その頃ちょうど流行り出していたYouTubeでそのCM映像が国内外でバズったことで、ミッシー・エリオットやマーティン・ソルヴェイグのミュージックビデオに出演したり、ツアーに参加したりしましたね。最終的には、それぞれの方向性に違いが出てきて、異なる道を進むことになりました。
無名(WOOMIN)以降、どのような活動をしていたのですか?
野口:もっと純粋にダンスに取り組みたくて、即興ダンスを踊りあって、勝敗をつけるようなダンスバトルに夢中になっていきました。当時はダンスのインストラクターとして生計を立てていたのですが、やっぱりダンスバトルに勝たないと生徒が集まらないし、ソロダンスで魅せられないと生きていけないと考えていました。ストリート以外にも、ジャンベやバレエ、ジャズ、モダン、コンテンポラリーといったダンスにも興味が出てきたので、本場のダンスカルチャーを体験しにニューヨークへ行ったりもしましたね。27歳ぐらいだったのですが、その時にダンスを生業にしようと決めました。
そこから、パフォーマンスユニット「WORLD ORDER」へ参加することに
なった経緯、振付や演出を手がけるようになったきっかけを教えてください。
野口:須藤元気さんがWORLD ORDERを始めるにあたり、UNIQLOのCMで踊っていた人たちとやりたいということで声がかかりました。チーフコレオグラファーとして、構成や配置、ライブの演出、ダンスに合わせた音楽の構成などを担当しました。もちろん、スーツを着たサラリーマンという日本人のアナログ的な世界観が強烈だし、そういった須藤さんのアートディレクションが軸になっているのですが、そこに無表情でアニメーションダンスを踊るという演出で、最大限にWORLD ORDERの魅力を引き出すことが僕の役目でした。ここまでやって成功しなかったら、もう諦めようというぐらい努力しましたし、人生の全てをかけていました。なので、この経験が、演出や振付師として活動するきっかけになりました。
現在は振付の仕事が中心になるのですか?
野口:CMなどの振付もそうですが、プロダンスリーグ「Dリーグ」に参戦しているチームLIFULL ALT-RHYTHMのディレクターをやらせてもらっています。あと、映像制作が好きなので、MVの仕事から自主制作まで、さまざまな映像を作ったりもしています。現在は、Dリーグの活動がかなりのウェイトを占めていますね。
LIFULL ALT-RHYTHMのディレクターとは、
どういったことをしているのですか?
野口:チームの結成にあたりメンバー選考から関わらせてもらいました。また、ラウンド毎に違うダンスを披露しなければいけないので、振付や演出はもちろん、音楽もオリジナル音源じゃないといけないので音楽プロデューサーと話し合ったり、衣装やヘアメイクなどのリファレンスを提出したりしています。スポンサーのLIFULLの企業理念に「利他主義」「多様性」といったキーワードがあり、社会課題の解決に取り組むという企業方針なので、そういった要素を見ている人に問いかけるような作品づくりを心がけています。
ダンスや振付の楽しさ、醍醐味を教えてください。
野口:友達と即興ダンスをするときは、何も考えないで身体で会話をするような、純粋な喜びがありますね。また、みんなと一緒に振りや構成を考えてひとつの作品を作る場合は、かけがえのない時間を共有でき、毎回ダンスの素晴らしさを感じています。
普段、何時間ぐらい寝ていますか?
以前と比べて、睡眠に対する考え方に違いがあれば教えてください。
野口:10、20代の頃は、深夜にクラブで踊っていたので昼夜逆転の生活を送っていたのですが、今は早寝早起きですね。朝は7時に起きて、夜は何もなければ21時ぐらいには寝てしまいます笑。やっぱり寝ないと次の日に頭が回らないし、しっかり眠ることでパフォーマンスも上がると思っています。もちろん、寝ていなくても現場に入れば強制的にスイッチを入れますが、十分に睡眠が取れていると気力の充電量といいますか、心に余白がある分、ゆとりを持って挑むことができるので、それがあるとないとでは結構違いますね。
あなたにとって睡眠とは?
野口:睡眠を楽しむようにしています。次第に眠気が襲ってくるのが気持ちいいし、心地いいですね。あとは、嫌なことがあっても、一回リセットするために眠ることが大切だと思っています。考えすぎてしまうのも良くないので。
休日はどのように過ごしていますか?
野口:お酒が好きなので家で晩酌したり、友達とスタジオで即興ダンスを遊び感覚でしたりしていますね。
今後の人生におけるヴィジョンを教えてください。
野口:例えば、お酒を飲むにしても、よいお酒をひとりで飲むより、誰かとシェアした方が楽しいし、最高値が増すと思うので、気の合う仲間と人生を楽しく過ごしていきたいですね。幸せになりたいです笑。
Text & Edit:Kazuhiro Hasegawa(no name books)Interview photos:Kazuhiko Tawara(magNese inc.)
睡眠とは
ダンスグループ「無名(WOOMIN)」「WORLD ORDER」を経て、2013年に「左 HIDALI」を設立後、2018年独立。計算された機械的な動きや、視覚的錯覚を熟知した作品制作で注目を集め、ミッシー・エリオットやウィル・アイ・アムなどの世界的アーティストから振付けの依頼を受ける、日本を代表するアーティスト兼振付師。