脳神経科学者ハル先生の気がかりな子供達の睡眠―Vol.1 眠れないゾンビ達を救え!

脳神経科学者ハル先生の気がかりな子供達の睡眠―Vol.1 眠れないゾンビ達を救え!

忙しい毎日。家に帰ってほっとするのはどんな時ですか?私は子供の顔を見た時です。目の中に入れても痛くないほどですが、寝不足気味な毎日でもあります(汗)。子供は好きな時に好きなだけ寝られていいなあ、と思われる方も多いと思いますが、子供の寝不足、気づいてますか?

ブルーライトが体内時計を狂わせる!

今や子供たちが持つのも当たり前となってきたスマホ。うちの1歳にも満たない子供でさえ私のスマホに興味津々で、いじったり、かじったり。こんなに小さな時からスマホが身近にある環境で育てば、スマホがあって当たり前に生活になるのは避けられないでしょう。実際平成29年度の内閣府の調査では、小学生のスマホ・携帯電話の所有・利用率は55%を超え、中学生でも65%を超えています。

ではスマホの普及によって子供の睡眠にどんな変化があったのでしょうか? 平成24年度の日本学校保健会による調査では、子供の平均就寝時刻は、小学5・6年生で22時、中学生で23時過ぎ、高校生で23時45分と、学年が上がるにつれ遅くなっています。一方、様々な調査で スマホを夜遅くまで使用することが寝不足につながっていることが示されています。小中高の子供に携帯電話などを持たせている保護者2000人を対象とした2019年、東京都の調査では、約半数が携帯電話などを持たせることにより、睡眠・視力・親子間の会話・成績など何らかの影響があったと回答しており、驚くことに「夜遅くまで携帯・スマホを使用し睡眠不足になった」が最も多い20%となっています

実はスマホの使用による寝不足は、単に寝る時間が遅くなるからだけではありません。スマホから出る光によって私たちの体内時計は夜型にシフトしてしまうのです。私たちの体内時計は脳の視交叉上核と言う場所でコントロールされています。視交叉上核はさらに脳の松果体と呼ばれる場所に作用して、松果体から分泌されるメラトニン量を制御しています。メラトニンには睡眠を促す働きがあり、夜になると分泌量が増えて眠くなり、朝に向けて分泌量が減り目覚めていきます。スマホなどの液晶画面のバックライトには青色の光、いわゆるブルーライトが多く含まれていますが、体内時計をコントロールするシステムは特にこのブルーライトに敏感に反応するのです。例えば、寝る前にiPadを2時間使うと、メラトニンの分泌量が23%減ると言う調査報告があります。研究室で厳密にコントロールされた実験でも、1週間、寝る前に数時間iPadで読書をしてもらうと、紙の本で読書をした場合に比べて、メラトニンの分泌量が20%以上減り、分泌が始まる時間が最大3時間遅れていました。

現代の子供たちは夜遅くまでスマホを使うことによって、単に寝ている時間が減るだけでなく、体内時計が狂い実際の眠くなる時間が遅くなっているのかもしれません。夜、スマホを使わないことが一番の対策ですが、まずはブルーライトをカットすることも対策として考えられます。最近ではOSにブルーライトを減らす機能がついていたり、ブルーライトを減らすアプリがあったり、とデバイスでブルーライトフィルターをかけることが可能になってきています。少しずつ子供たちの正常な体内時計に戻してあげる手始めに試してみてはいかがでしょうか?

子供はもともと夜型人間だった!?

やばい寝坊した!急いで支度して学校に行かなきゃ!

朝が苦手な子供によくあることですよね。特に思春期になると、親としては怠けているのではないかと思うほど、朝なかなか起きてこない子供に対してついつい声を上げてしまうこともあるのではないでしょうか?これは決して100%が怠けているわけではなくて、実際子供の体内時計が大人と異なっていることから起こる生理現象とも言えます。

思春期になると、脳の視交叉上核でコントロールされている生体時計が進み、眠りを促すメラトニンの分泌のタイミングが遅れていきます。そのため、10歳ごろは朝方だったのが、思春期から青年期にかけて夜型にシフトし、20歳ごろに最も夜型になります。20歳の男性では10歳の男子に比べて、実に約2時間も夜型にシフトしているという海外のデータもあります。つまり、思春期から青年期にかけてはホルモンの関係上夜更かししやすく、朝寝坊しやすいのです。夜遅く寝てしまっても、学校の始業時間は遅くなってはくれません。学校に行く子供にとって朝7時に起きるのは、両親にとって朝5時に起きるのと同じくらい辛いことかもしれないのです。

体にフィットし、リラックスさせてくれる寝具を選びましょう

子供たちの体内時計が自然に遅れることを考えると、早すぎる学校の始業時間は適していないのかもしれません。実際、海外では、学校の始業時間を遅らせると出席率が上がる、子供の問題行動や精神的な問題が減る、アルコールやドラッグの濫用が減る、さらには自動車事故が減り、死亡率が下がる、など多くのベネフィットが確認されています。問題が減るだけではありません。例えば、ミネソタ州のある学校で始業時間を7時25分から8時半に遅らせると、生徒の成績が向上したという報告があります。同様の結果は、アメリカ各州の学校でも得られています。

社会として学校の始業時間をどうするか、まだまだ検討の余地があるかもしれませんが、 実際に学校の始業時間を遅らせるのは今のところ難しい問題です。親としてできることは、子供が不必要に夜更かしになることに注意し、朝寝坊は自然の生体の変化だと考えて受け入れることかもしれませんね。 

 

ハル先生プロフィール:
大川 晴久
東京大学卒業。南カルフォルニア大学、神経科学 博士課程卒業。
その後、約7年間ワシントン大学にて脳神経科学者として研究に従事。
その後、製薬系の外資コンサルティング会社にて、神経系のプロジェクト担当。
現在、外資系製薬会社に勤務。中枢神経部門に属する。 

 

引用:

  • 石原金由 (2001) 睡眠社会学 学校教育における睡眠障害の問題点 Pharma Media 20: 97-98
  • 内閣府 平成29年度 青少年のインターネット利用環境実態調査報告書https://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h29/jittai_html/2_1_1.html
  • 日本学校保健会 平成 28-29 年度児童生徒の健康 状態サーベイランス事業報告書https://www.gakkohoken.jp/books/archives/208
  • 東京都 家庭における青少年の携帯電話・スマートフォン等の利用等に関する調査https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/05/09/16.html
  • 睡眠こそ最強の解決策である マシュー・ウォーカー SB Creative
  • Foster RG and Roenneberg Tl (2008) Human responses to the geophysical daily, annual and lunar cycles. Curr Biol. 18 R784-794
  • Wolfson AR and Carskadon MA (1998) Sleep schedules and daytime functioning in adolescents. Child Dev. 69: 875-887
  • 田中秀樹(2005)思春期の睡眠と心身健康 – 睡眠健康教育の必要性 睡眠障害診断のコツと落とし穴 98-101 中山書店
  • van Dongen HPA, Rogers N, Dinges DF (2003) Sleep debt: Theoretical and empirical issues. Sleep and Biological Rhythms 1: 5-13
  • Taki et al. (2012) Sleep duration during weekdays affects hippocampal gray matter volume in healthy children. Neuroimage 60: 471-475
  • 睡眠のなぜに答える本 大川匡子、高橋清久、ライフサイエンス
  • Fukuda K and Ishihara K (2004) Evening naps and delayed night-time sleep schedule typically found in Japanese adolescents is closely related with their daytime malfunctioning. Sleep Biol Rhythms 2: S45-46
  • Gangwish et al. (2010) Earlier Parental Set Bedtimes as a Protective Factor Against Depression and Suicidal Ideation. Sleep 33: 97-106
  • 睡眠障害の子どもたち 大川匡子

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