子供たちに睡眠

脳神経科学者ハル先生の気がかりな子供達の睡眠―Vol.2寝不足脳のサインを見逃すな!

2014年度の文部科学省の調査報告では、実に中学生の4人に1人、高校生の3人に1人が、睡眠時間が十分ではないと感じています。眠れない脳は、記憶のゴミが整理できないままに溜まっていき、無意識にストレスを溜めていきます。キレやすい子供たちにとって眠りは足りているのでしょうか?

寝る子は学ぶ

今や子供たちが持つのも当たり前となってきたスマホ。うちの1歳にも満たない子供でさえ私のスマホに興味津々で、いじったり、かじったり。こんなに小さな時からスマホが身近にある環境で育てば、スマホがあって当たり前に生活になるのは避けられないでしょう。実際平成29年度の内閣府の調査では、小学生のスマホ・携帯電話の所有・利用率は55%を超え、中学生でも65%を超えています。

アメリカの高校生を対象にして、学業成績と睡眠習慣の関係性を調べた調査では、学業成績が悪い生徒(グレードがC、D、F)は良い生徒(グレードがA、B)と比較して、就床時刻が40分遅く、睡眠時間が25分短いという結果が出ています。アメリカに限らず、日本でも同様の結果が示されています。

睡眠不足によって学習能力が下がる可能性は実際に証明されています。例えば、成人を対象として実験的に慢性的な睡眠不足にすると、記憶など認知課題のパフォーマンスが低下することが示されています。私たちの脳は寝ている間に、一時的な情報の保管場所である脳の海馬から大脳新皮質へ記憶の引越しが行われます。寝不足ではこの引越しが十分に行われないのです

興味深いことに、5−18歳の日本人290人を対象とした研究では、睡眠時間を十分にとっている子は、睡眠時間が短い子にくらべて、海馬が大きいことがわかりました。海馬は情報の保管・処理に関わるため、その大きさは子供の学習能力に関係するかもしれません。 

子供のテストの成績が上がってほしいのであれば、「勉強しなさい」ではなく、今夜は「よく寝なさい」と話しかけてみてはどうでしょうか?

子供たちの笑顔

キレる子供をつくる寝不足脳!?

「うちの子はなかなか寝ないから、機嫌が悪いのよ〜」ってよく聞きますよね。これは実際正しいかもしれません。

文部科学省の2014年度の調査では、就寝時間が遅くなるにつれて「なんでもないのにイライラする」と回答する子供の割合が増加しています。中学生を対象とした調査でも、就床時刻が遅いほど、イライラの程度が高く、抑うつや不安症状が悪化することが示されています。

一体なぜ睡眠習慣の乱れが情緒の不安定につながるのでしょうか?健康な成人を2グループに分けて、1つのグループは一晩中起きてもらい、もう1つのグループは普通に寝てもらった後、100枚の写真を見せて、脳の反応を見た実験があります。100枚の写真には感情的にニュートラルなものから、ネガティブな感情を引き起こすものまで、様々な写真が含まれていました。その結果、扁桃体と呼ばれる、怖い、嫌だ、と言う感情を感じる場所に違いが見つかりました。睡眠不足のグループでは、ネガティブな写真に対して扁桃体の反応が60%高く、よく寝たグループでは反応が抑えられていたのです。さらに調べると、一晩よく寝ると、脳の前頭前皮質と扁桃体のつながりが強くなることがわかりました。前頭前皮質は理性を司る場所で、扁桃体へのつながりを通して、扁桃体の働き、つまり感情をコントロールしています。寝不足だと、この感情をコントロールするブレーキが弱くなり、情緒が不安定になりやすいのです

では子供の睡眠習慣は親のしつけによってどの程度、変わるのでしょうか?アメリカの中高生1万5千人を対象とした大規模調査では、親のしつける就床時刻が0時以降の場合だと、22時前に寝るようしつける場合に比べて、実際の子供の就床時刻が1時間遅れ、睡眠時間が40分短くなり、抑うつ症状を発するリスクが高まることがわかりました。


子供の精神的な健康を保つためには、遅くまで起きていないよう、しつけることが大事ですね。

 

ハル先生プロフィール:
大川 晴久
東京大学卒業。南カルフォルニア大学、神経科学 博士課程卒業。
その後、約7年間ワシントン大学にて脳神経科学者として研究に従事。
その後、製薬系の外資コンサルティング会社にて、神経系のプロジェクト担当。
現在、外資系製薬会社に勤務。中枢神経部門に属する。 

 

引用:

  • 石原金由 (2001) 睡眠社会学 学校教育における睡眠障害の問題点 Pharma Media 20: 97-98
  • 内閣府 平成29年度 青少年のインターネット利用環境実態調査報告書 https://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h29/jittai_html/2_1_1.html
  • 日本学校保健会 平成 28-29 年度児童生徒の健康 状態サーベイランス事業報告書https://www.gakkohoken.jp/books/archives/208
  • 東京都 家庭における青少年の携帯電話・スマートフォン等の利用等に関する調査https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/05/09/16.html
  • 睡眠こそ最強の解決策である マシュー・ウォーカー SB Creative
  • Foster RG and Roenneberg Tl (2008) Human responses to the geophysical daily, annual and lunar cycles. Curr Biol. 18 R784-794
  • Wolfson AR and Carskadon MA (1998) Sleep schedules and daytime functioning in adolescents. Child Dev. 69: 875-887
  • 田中秀樹(2005)思春期の睡眠と心身健康 – 睡眠健康教育の必要性 睡眠障害診断のコツと落とし穴 98-101 中山書店
  • van Dongen HPA, Rogers N, Dinges DF (2003) Sleep debt: Theoretical and empirical issues. Sleep and Biological Rhythms 1: 5-13
  • Taki et al. (2012) Sleep duration during weekdays affects hippocampal gray matter volume in healthy children. Neuroimage 60: 471-475
  • 睡眠のなぜに答える本 大川匡子、高橋清久、ライフサイエンス
  • Fukuda K and Ishihara K (2004) Evening naps and delayed night-time sleep schedule typically found in Japanese adolescents is closely related with their daytime malfunctioning. Sleep Biol Rhythms 2: S45-46
  • Gangwish et al. (2010) Earlier Parental Set Bedtimes as a Protective Factor Against Depression and Suicidal Ideation. Sleep 33: 97-106
  • 睡眠障害の子どもたち 大川匡子

gugu magazine

ニュースレター登録

登録
  • support@gugu.jp

    日本語と英語で対応
    9ー18時(日本時間)
    *土日を除く

  • 0120-029932

    日本語のみ対応
    9ー18時(日本時間)
    *土日を除く
    *コロナ禍によるリモートワーク体制のため、
    メールでのお問い合わせをご協力お願い申し上げます

  • FAQ

    ご質問はこちらへ